かっこ悪い振られ方、二度と君に会わない

1 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:*** 
 
最初にお断りしておくが、これは冗長な自分語りである。
あまり面白くないと思う。
 
共通の知人の結婚式で、前に付き合っていた女性に会った。
もう数年前のことだ。
私たちは大学の同期生で、お互いが初めて付き合う相手だった。

二十歳から付き合い始め、20代の大部分を二人で過ごした。
同棲していた期間も長かった。
20代の終わり、彼女が突然別れを切り出し、
部屋を出て行った。会うのはそれ以来だった。
 
彼女は美人ではない。
ファッションに力を注ぐタイプでもない。

しかし彼女は、なんというか、非常に素敵になっていたのだ。
その時だって別に美人ではなかったが、
彼女を綺麗だという人がいても私は全く驚かない。
付き合っているときはあんなにもっさりしていたのに。
 


2 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***
 
私にはその時点で、特定の恋人がいなかった。
それで思ったのだ。
彼女とは趣味が合うことも分かっているし、
一度は別れたが共に積み重ねた10年からの歴史があるわけで、
もう一回付き合ってみてもいいんじゃないか、と。

もしも彼女に彼氏がいたとしても、
そいつには私の何分の一かの歴史しかない。
しかも私は転職に大成功を収め、
今や彼女と付き合っていた頃の3倍の収入を得ている。
勝ち目はある筈だ。
 
友人に頼んだ根回しも功を奏して、
パーティーが終わった後に彼女と二人で話す機会を得た。
近くのカフェで、向かい合って座る。
私は柄にもなく緊張していた。
 
とりあえず、付き合っている男はいるのか聞いてみる。
答えはイエス。まあ、いい。
何とかしてみようではないか。
ここはひとつ端的に切り込んでみようと考え、私はストレートに言った。

「今日、久しぶりに見たら綺麗になっていて驚いたよ。
付き合ってた頃と別人みたいじゃん。
こんな○○ちゃんだったら、俺もう1回付き合ってもいいなと思っちゃって。」
彼女は薄く笑みを浮かべたまま、きっぱりと答えた。
「やめたほうがいいよ」

考えるだにどうかしているとしか思えないが、
この時の私はやけにイケイケな気分で、彼女の言葉に
「そんな遠慮することないよ、自信持ちなよ」などと思って浮かれていた。
そこに彼女から放り込まれたのが、こんな言葉だった。
 
「あなたと付き合うと、私またブスになるから」

浮かれた心が一瞬で冷え切った。
ええ、今何て言った?耳を疑う。
「どういうこと?」
私は顔が引きつるのをこらえながら彼女に尋ねた。 
「あなたは私に何をしたのか、覚えていないの」
彼女の声が冷たくなる。
パーティーで友人たちと笑っていた時とは別人のように。
 
「俺、何した?」
最悪な返答だが仕方がない。これしか言葉が思い浮かばなかった。
彼女は言う。
「聞きたいの?忘れているならそのほうがいいんじゃないの?」
「いや、聞きたい。」
私は食い下がる。
長くなるよ、と彼女が言う。
別にいいよ、と私は答える。それなら、と彼女が話し出した。



3 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***
 
「あなたが私にしたのは、
「私には性的な価値がない」と徹底的に叩き込むこと。
自分みたいな度量のある寛容な男がいたから恋愛をできているけど、
本当は市場価値なんかない、むしろマイナスだということ。
 
付き合っている間中、あなたにブスといわれデブといわれ、
友達の彼女と比べられて、
「俺にも男のプライドがあるから」っていう理由で
友達がカップルで集まる場に連れて行くのを拒否されて、
あなたの友達が私のいる前で
「(こんなブスと付き合えるなんて)お前凄いわ」
ってあなたに言っても、あなたはひとつも怒らず
「まあいいとこもあるんだよ、家事出来るし」って言ってへらへらして、
友達が帰ったらその日はずっと私に冷たく当たったよね。
 
二人で働いてたのに家事は全部私がやってたし、
ご飯も、あなたは放っておくと牛丼とコンビニばかりで、
そのくせそれだとすぐに具合を悪くするから、食費はほとんど私が出していた。

あなたは服や本やレコードを大量に買ってくるけど
収納は絶対に買わなかった。収納も私が買った。
とにかくくたくただった。

仕事がないときは家事、家事が終わって茶の間に戻ると、
あなたが自分の好きな音楽や映画をかけていて、全然楽しくなかった。
くたくたに疲れてるときに、プログレだのレディオヘッドだのフランス映画だの。

私がたまに好きな音楽をかけると黙ってボリュームを下げたでしょう。
私はボリュームなんていじってなかった。
あなたと同じ音量のままだった。
お金も時間もなくて、元気もなくて、いつもけなされて、
綺麗になんかなれる筈がないと思う。」
 
私は黙った。
彼女がいうことは、一つ残らず事実だった。
俺は交際相手でありながら、
彼女を女性として価値の低い人間だと思っていた。
それでも彼女の賢さや仕事の能力は掛け値なしに評価していたし、
ブスだのというのも照れ隠しのつもりだったし、
彼女のことを愛しているつもりでいた。
 
しかし、何だかそれもよく分からなくなっていた。
自分がこんなに酷い男だったとは、それを彼女がこんなに恨んでいたとは。

「うん、付き合ってたときは、俺が悪かったと思う。でも俺も変わったし…」
私が何とか言葉を繋ぐと、彼女は遮るように
「あなたと付き合うことは、二度とないよ」とぴしゃりと言った。

私は思わず舌打ちしそうになり、何とか抑える。
そして、また黙る。長い沈黙。
彼女に目をやると、顔色ひとつ変えず
淡々とコーヒーを飲んでいる。

無性に怒りが湧きあがる。 
「あのさ」私は言う。言うが、言葉が続かない。
むかむかして黙っていられなかっただけで、
言いたいことなど特にはなかった。



4 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***
 
彼女は言う。

「私、もうあなたの不機嫌は怖くないよ。あなたのこと好きじゃないから。
付き合ってた頃は不機嫌になられるのが嫌で、
何でも言うことを聞いていたけど、もう違うから。」

彼女は、付き合っていた頃は見たことがないような毅然とした表情だった。
綺麗だった。
 
「今の彼氏は、いい男なの?」
私は力なく、聞きたくもない質問をする。
彼女は短く「うん」とだけ答える。
どんな奴なの、幸せなの。

いろいろな言葉が口を突いて出そうになったが、
聞いても仕方がない。

そいつがいい奴で、彼女を幸せにしているのは一目瞭然だったから。
来年の夏に結婚するの、と彼女が言う。

「ごめんなさい、最初にあなたが「もう1回付き合わないか」って言った時、
「私、結婚するから」って言えば済む話だったのに。
何だか自分でもコントロールが利かなくて、長々と酷いことを言って。」

彼女は悲しそうな顔をしていたが、その顔はとても優しく穏やかだった。
そんな表情を初めて見た。
 
「本当に、本当にごめんなさい。酷い後出しで、今更こんなことを言って。
私、あなたが好きだったの。
でも、一緒にいるときは卑屈になるばかりで、勝手に疲れて自爆しちゃった。
次に付き合う人には、うんと優しくしてあげてね」
 
彼女はそう言ってにっこりと笑った。
私は泣きそうになっていた。
私はこの人を何年もかけてぼろぼろにし、
それを見知らぬ男がものの数年で完璧に近く治癒して、
彼女は美しくなり、変わらず聡明であり、
私はそんな彼女と、恐らくもう会うことすらないのだ。

便所に行き席に戻ると、彼女はもういなかった。
テーブルからは伝票がなくなっていた。
 
先日、新宿で久しぶりに彼女を見かけた。
結婚相手らしき男と一緒だった。
彼女から話を聞いて、最低の男である私は
「そういう優しい男は大抵が醜男だし、心根が良くても話がつまらなかったり、
お人よしで金に縁がなかったりするに決まっている」と勝手に思い込んでいた。

ところが、彼女の伴侶は私など比べ物にならないほどの長身のイケメンで、
二人で笑いながら話している様子を見るに
つまらぬ男にも貧乏な男にも見えなかった。

彼女はあの時よりももっと綺麗になっていた。
男は顔をくしゃくしゃにして彼女に笑いかけていた。
二人は新婚のように睦まじく、目を引くくらい幸せそうだった。

私はといえば、
コーヒーを飲みながら妻の買い物が終わるのを待っていた。




5 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

妻は彼女よりも美人で、彼女ほど賢くはなく、
たまに長話に退屈はするが、結婚生活は概ね幸せである。

私は家事をし、妻の美しさや料理の美味さを毎日褒め、
妻の好きなミスチルを好きになろうと聞き込んだりするようになった
(それで実際好きになった)。私は妻が笑うと嬉しい。
私は妻を愛している。
 
結婚式の後で彼女と話したカフェを出た後から2ヶ月くらい、
私は自分の最低さに打ちのめされ、体重が減るほど落ち込んだ。
彼女を逆恨みして死ねばいいのにあのクソ女と思ったり、
そんな自分が醜すぎて吐いたりしていた。

あんな話を聞いたこと、彼女と話す気になったことをくよくよと悔やみ、
あの日の前日にタイムリープしたいと真剣に願った。
けれど、あの時、あの話を聞いてどん底に堕ちなければ、
私は彼女をずたずたに傷つけた最低の心を直視して、反省して、
直そうなどとは一生思わなかったろう。

女性に対して「あなたは価値が低い」と言い、気に食わないことがあれば
不機嫌な顔をして、それで支配できなければ
「一緒にいても退屈なんだよね」等と言って別れていただろう。
実際、彼女の次に付き合った女性とはそうして駄目になった。
 
今、彼女に対しては深い深い感謝しかない。
彼女には、旦那に愛されて私のことなどすっかり忘れていることを願う。
下らない話ももう終わりにする。

読んでいて私に腹の立った人もいるだろう。
不愉快な思いをさせて申し訳ない。
読んでくださったことに感謝します。




6 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

久しぶりに素晴らしい話しを知りました。 
主さんご夫婦、前カノさんご夫婦双方、幸多き人生を
歩んでいかれるのをお祈りしています。




7 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

配偶者を大切にしていることは大変すばらしい事です。嫁さんを大切に。
まあ、元カノへ感謝している割には自分の決めつけで
良く知りもしない相手を見下したり、外見に勝ち負けをつけたりする
価値観・性格はちっともお変わりで無いようですけど。



8 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

はーい、いま学生で同棲とかしちゃってる男子~。 
このおっさんの馬鹿さ加減を見て自分も同じ過ちを犯していないか省みて~。 
男は馬鹿だからね~。
自分は違うと思ってもやらかしてるよ



9 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

良い話だと思うが、まだ影があるね。かなり引きずってるな。
しかも、自分のプライドを守る方向で。
 
奥さんに優しくしているのも、「元カノに注意されたから気をつけるため」ではなく
「二度と罵倒されないため」に見える。
だからいつか我慢が限界に来て別れかねないぞ。



10 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

いろいろ性格に問題があるように見えるけど、過去を反省して
改善できる能力と度量も持っていると思う。 
文章も読みやすいし、きっと頭も良いんじゃないかな。



11 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

自分にも思い当たるフシがあって色々と思い出した。



12 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

つくづくこういうの読んでると、
男の人は昔つきあってた人を
上書き保存できないんだなって思う
この事例モラハラだし。




13 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

元彼女偉い。
あなたの変わらなさぶりに思わず気持ちを話したんだろうけど、
自分は同性でコレがあってあの子にこうやって話せるか今でも難しい。
正直、罵倒する気もないし変わっても変わらなくてもどうでもいいかな




14 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

何が不満だったかきちんと伝えた上で無粋を謝る女と、
自分の落ち度を認められる男。
素晴らしい




15 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

わりと自分を省みたい事案でしたありがとう。
でも最後の『私のことなどすっかり忘れていることを願う。』は残念。
覚えてなんてないし、そんなことは言わないほうが懸命。
「忘れてくれるな」に聞こえるよ




16 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

これ読んだ人が、あっ俺も彼女にヒドイことしてるのかも…、
と気付いてもらいたい、っていうのが主旨だと思う



17 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

男は何度かお付き合いを失敗しないと色々気付けないというのは同意できる。
多少とも支配的でない男は少ないと思う。



18 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

綺麗な文章だし面白いと思った。
結構な文才持った素人が一生に一本だけ書けるレベルのエッセイ。



19 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

凄い。よく自分の弱さを直視できたな。
心をえぐるような慟哭なしでは決して得られない気づき。…
男女の理解があれば世の中は幸せになると思ってるけど、
ここまで強烈な体験は万人向けでは絶対ないと少し後じさった。



20 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

わかる。私は先日5年ぶりに大学時代ずっとつきあってた男と同窓会で会ったが、
「あ、今不機嫌になったな」と誰よりも敏感に
彼の不機嫌を察する自分に嫌気がした。
私も同じように言いたいけど、言えないままである。



21 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

立ち直ってそれなりに幸せな生活をしてるラストがメシマズ…



22 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

お姉さんは、本当に立ち直ったんだなあ…。
そういう相手って怖くて近寄りたくないもんだよ。



23名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

女性に対しては「よく抜け出した」「よく頑張った」「かっこいいよ」
そして男に対しては「省みたことはエライ」というのが感想



24 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

最後の、元カノ旦那を見た感想や今の妻の描写を読むに、
本質的なとこは全く変わってないんだな。

「元カノほどには好きでもない妻に優しくしてるなんて、
俺、頑張ってるっしょ。ま、あんたの嫁より美人だけど」的な。




25 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

自分の非道を割とすぐ忘れる癖があるようなので
今の嫁に愛想尽かされないように気を付けようね!



26 名前:名無しさん:2013/03/26 ID:***

大事なことはいつだって別れて初めて気が付くんですね

 http://anond.hatelabo.jp/20130326193638

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